きらめく人たちにインタビュー
10月19日~24日千葉県立美術館にて令和3年度第50回千葉県身体障害者作品展が開催されました。
受賞されたのは、白井市福祉センターで開催されている教室に通われている皆さんです。
陶芸教室から2名、書道教室からは1名と7名1組の方々に、福祉センターにて表彰状が手渡されました。
当日、受賞された方々にインタビューをさせていただきました。皆さんご自身の障害を乗り越え、何歳になっても挑戦する姿勢、そして何より生活を楽しまれている様子が印象的でした。
小川喜庸(よしやす)さん
千葉県教育長賞〔手工芸の部(陶芸)〕作品名「兜」
西山義昭さん
千葉テレビ放送賞〔手工芸の部(陶芸)〕作品名「JAZZ」
田中八代いさん
千葉県知事賞〔書の部〕作品名「般若波羅蜜多心経」
秋本直子さん、堀部邦子さん、小川喜庸さん、小島碧(みどり)さん、野田幸子さん、林美恵子さん、寺田光浩さん
ベイエフエム賞〔書の部〕作品名「某日一字」
【手工芸の部(陶芸)】
千葉県教育長賞を受賞された小川喜庸さんの作品「兜」
Q:なぜこの作品を作ろうと思いましたか?
私は城郭建築が好きなので、本当はお城がつくりたいのですが、お城は土台から櫓に至るまで構造が複雑なので、まずは兜から始めようと思いました。
兜はバランスを取る事が難しいんです。左腕が動きませんので、大きさや高さを整えるために回転台に乗せ、回しながら形を整えていきました。
Q:陶芸を始められたきっかけを教えてください。
9年程前からと記憶しています。
過去にはお雛様作りの講座に面白半分で参加したことがありますが、仕事を引退してから白井市福祉センターで開催している陶芸教室に通い始めました。
私は自営業をしていて引退するまでは仕事一筋、趣味といえるものは何もありませんでした。陶芸教室も面白そうだから、一度やってみようかと思い始めた事がきっかけです。
Q:どのような作品を作られていますか?
近年は干支ですね。12支を毎年制作しています。実在しない龍は想像で作りますが、その他の干支は実在する動物ですから作りやすいと思います。
Q:干支(動物)を制作する時注意していることは何ですか?
全体的な形はもちろん大切ですが、表情をどう作るかが一番難しいと思います。顔の向きや形、そして全体の全てを決めてしまう眼の向きや形ですね。眼の位置が一番難しいです。
Q:作品を作ることで苦労したことを教えてください。
脳梗塞で入院し半身不随になって20年になります。今でも毎日運動して体を動かさない日はなく、指も少しずつ動かせられるようになって曲がるようになりました。それでもまだ作品を作るとき、自分の腕で支えていられないので周りの方々にお世話になっています。
陶芸に一生懸命になって取り組んでいることが、良いリハビリになっているように思いますね。
入院中は、身体を動かせるためにどうすれば良いか思い悩みました。医師に相談した際に「自分の身体だから自分で動かす強い意思をもたなければ治らない」と言われました。
今もリハビリ中ですが、自分には動かせる右腕・右足という素晴らしい見本がありますので、痛くて動かない左腕・左足を右半身を手本にして動かしています。
Q:干支以外で挑戦してみたい作品はありますか?
やはり、最終的には城郭です。出来るか出来ないかは別としてお城はいつか作りたいですね。目標は白鷺城として有名な姫路城ですが、最初は少し小さな城郭から挑戦してみたいです。
2年位前、妻と子ども夫婦4人で彦根城に行きました。思ったより小さかったです。
Q:ご自身の経験を元に、白井市の皆さんにメッセージをお願いします。
「自分はもう歳だ」と思わない事です。
私自身86になりましたがまだ運動もします。筋肉がなくなっては何もできなくなります。「いつの間にかこの歳になったんだ!」と思えるくらい動く事が大切だと私は思います。どんな事でもいいから、没頭できることを見つける事だと思います。
小川さんご夫婦
【手工芸の部(陶芸)】
千葉テレビ放送賞を受賞された西山義昭さんの作品「JAZZ」
Q:陶芸を始められたきっかけを教えてください。
陶芸は約10年前からと記憶しています。全盲になったのも年齢を重ねてからで、生まれつきではありません。
しばらくの間自宅を出ることもできず、外出することも一人では出来ませんでした。そんな日々をすごしていた頃、参加できそうなサークル活動を探してみようと思い始めました。
市役所へ手続きに訪問したとき、偶然陶芸教室が開講されていることを知りました。全盲である私が陶芸なんてできないだろうと思ったのです。でも「大丈夫ですよ。実際やってる人もいますよ!」って言われ、ちょっと触らせてもらい「じゃあ一回やってみるか」と思ったことがきっかけです。
Q:10年間でどんな作品を制作しましたか?
最初の頃は茶碗や皿をつくっていましたが、こればかりでは面白くないなと思い、少しずつ違う作品に取り組んでみようと思い始め「五重の塔」を制作してみたのです。それが努力賞を受賞する作品となり、この作品で始めて受賞を経験しました。
2度目の経験は3年前だったように記憶していますが、千葉県知事賞・千葉県教育長賞・千葉県美術館賞を受賞した「果物」を制作しました。
Q:今回受賞された「JAZZ」を制作するのに苦労されたことは?
一番苦労したのは、ピアノの鍵盤やペダルなどの細かい部分です。細かい部分を再現するのに見えないという事は難しいですね。手の感覚だけが頼りでした。
ピアノは自宅にありますので想像しやすいのですが、自身が触ったことのない今回のウッドベースを作るのには苦労しました。
粘土は乾かなければ形は保てません。時間が経つと、どんどん弛んできますので常に触りながら形が保てられるようにしなければならないので難しいです。
Q:ピアノのデザインがとても趣きのある作品にみえました。
あまり現実的な造形に近づきすぎると、そのものを単に再現したにすぎません。色々なところが歪んだりデコボコしていることで趣きを表現してみました。
今は「JAZZ」に続く作品に取り掛かっていて、部品を幾つか制作して組み合わせていきます。
Q:次はどのような作品に挑戦したみたいですか?
具体的に考えてはいませんが、今まで作ったことのない「花瓶」に取り掛かってみようかと思っています。果物を作ってみたし、楽器にも挑戦しました。屋形船や石灯籠も作ってみましたが、今後は花瓶に挑戦してみたいです。
Q:ご自身の経験を元に、白井市の皆さんにメッセージをお願いします。
きっと市内には、障害等を持っている事で外出することが、億劫になっている方もおられると思います。できるだけ市役所や近隣センターなどで開催している講座や教室などに、参加することをお勧めしたいと思います。
白井市障害者計画等策定委員会委員を経験し、現在身体障害者のみなさんの相談委員を拝命しています。市内には外出してみようと思っていても、外出することができない方も多いのです。
できるだけ、自宅から外へでて何かにチャレンジしてみたいと思っていただきたいです。陶芸でも絵でも上手く作ろうと思わなくていいですよ。
西山さんご夫婦
【書の部】
千葉県知事賞を受賞された田中八代いさんの作品「般若波羅蜜多心経」
Q:書道は始められたのはいつ頃ですか?
子供の頃から書くことが好きでした。趣味でした。
60歳の頃、東京の日本教育書道芸術院に通って師範の資格を取得し、書道教室を開いて子供たちに教えていたんです。筆を持つことが生きがいでした。
Q:般若心経を書こうと思ったきっかけは?
今年のお正月に書こうと思ったんです。写経は40~50年前からやっていました。成田山新勝寺の写経大会に参加もしていました。
清書は今回が初めての挑戦です。般若心経を選んだ理由は、菩提寺の延命寺が真言宗だからです。お経は大切な教えです。文字は全部で278文字。書く前に身を清めて2時間半、休まずに一気に書きました。
Q:2時間半も!? よく集中力が持ちましたね。
字を書くことは普段からしていたので大変だとは思いませんでしたよ。でもいっぱい間違えました。一文字書き間違えては最初からやり直し、列を飛ばしてまた最初から書き直し。全部で2万字くらい書きました(笑い)。
Q:受賞されたと聞いた時のお気持ちは?
県知事賞を受賞して本当に嬉しいです。でも「嘘でしょう!まぐれ?」が最初の気持ちでした。
これで心残りはないです。大手を振ってご先祖様のところに逝けます(笑い)。作品は菩提寺に寄進したいと思っています。
Q:白井市の皆さんに一言お願いします。
私は今年で95歳になります。慢性心不全を患っていて酸素ボンベが必要で、いつ逝ってもおかしくない年齢です。今日一日を大事にして夜が明けたら生きている、そしたらまた今日一日頑張ろう、明日も夜が明けて生きていたら一日を大事に過ごそうと、毎日一日を大事に生きています。
人生の後輩たちに送りたい言葉は、
不安定な世の中だけど、「日陰を歩くんじゃない、日の当たる道を歩く。」「つま先だけで歩かないで、かかとも地面につけて、しっかりと一足一足歩いて来いよ。」
ありがとうございました。
【書の部】
ベイエフエム賞を受賞された作品「某日一字」
Q:この文字を選ばれた理由と字への思いがあれば教えてください。
先生からの課題でした。好きな文字を1人ずつ選びました。早い者順で(笑い)好きな文字を選べた人も仕方なく選んだ人もいます。
歌...歌うと賑やかな気分になります(小島 碧さん)
友...私にとって大事なもの(寺田 光浩さん)
楽...みんなと一緒で楽しい(小川 喜庸さん)
花・好...花は難しいです。好もバランスをとることが難しいです。(秋本 直子さん)
美・集... 美という字が好きで選びました。先生に教わり書きました。(野田 幸子さん)
酒・語...コロナ過でも友達とお酒を飲みながら語って、歌ってと楽しむ、好きな美しい花を愛でる、みんなで集まって笑う。素敵な字です。あまり飲めないんですけどね。(林 美恵子さん)
笑...笑いながら過ごせたらいいな(堀部邦子さん)
上段左から、小島碧さん、寺田光浩さん、堀部邦子さん、酒井祥子さん(講師)
下段左から、小川喜庸さん、秋本直子さん、野田幸子さん、林美恵子さん
Q:書道はいつから始められたのですか?
ほとんど全員がこの教室で初めて書道を習いました。
最初はみんな苦労しました。書く手に力が入って上手く書けない。利き手がマヒしている人もいます。利き手でない手で書くのは大変苦労していました。でも思うように書けたときは嬉しいです。
みんなで一緒に、このような作品を書くのはとても楽しかったです。
Q:白井市の皆さんにメッセージをお願いします。
書道は日本人の心です。書くことは心の拠り所になりますよ。
障害があると自宅に引きこもりがちですが、何かきっかけを見つけて外に出てください。この書道教室に通うことも、きっかけになると思います。この福祉センターは障害のある私たちの憩いの場です。
私たちは、もっとたくさんの人と一緒に書道を学びたいです。ぜひ福祉センターに遊びに来てください。
みんなで一緒に字を書きましょう!
謝意:陶器の部で受賞された、人生の先輩である小川喜庸さん、西山義昭さんのお二方にインタビューさせて頂き、教えて頂く事しかありませんでした。
いくつになっても挑戦する姿勢、最大限に工夫をし趣味を通して生活を楽しまれているお話をお聞きし、目標の将来像を目の当たりにしたように思います。
県知事賞を受賞された田中八代いさん、95歳にしての集中力に感服しました。病を患っていらっしゃるなか2時間半もの作業に取り組む...尊敬しかありません。
ベイエフエム賞受賞の7名の皆さん、とても和気あいあいとされていて、とても楽しそうで、一緒に書道を習いたくなりました。
人生まだまだ、これから!です。
受賞者の皆さん、貴重なお話を伺わせていただき心より感謝申し上げます。
※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。