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白井の史跡・文化財

【取材記事】第22回白井市文化財講演会~守ろう、郷土の文化財!~

2023年6月24日、白井市文化センター中ホール(かおりホール)で『小金牧の野馬(のま)と牧士(もくし)』に関する講演会が開催されました。

主催:白井市教育委員会/協力:白井市文化財審議会

講師には、馬の博物館(横浜市中区)学芸員の金澤 真嗣(かなざわ まさつぐ)氏が招かれました。

主催者代表あいさつ

白井市教育委員会 井上教育長

本日は白井市文化財講演会にお集まりいただきまして、ありがとうございます。また指定文化財所有者、管理者の皆様方には日頃より指定文化財の管理・公開にご尽力を賜り、厚く御礼を申し上げます。

 

この講演会は市の歴史や文化財について学ぶ機会を設けることで、一層の文化財の保護と活用を推進することを目的に開催しているものでございます。

 

白井市は旧石器時代から現在に至るまで様々な文化財がありますが、その中でも江戸時代に幕府によって設置された小金牧-これは白井市の歴史を語る上で欠かせないものです。

 

市内には小金牧に関連するさまざまな文化財が残されています。これらの文化財は白井市だけではなく千葉県を代表するものであり、日本全国を見てもあまり残っていない郷土を代表する資産と言えます。

 

今回は横浜市にあります「馬の博物館」で学芸員をされていらっしゃいます金澤 真嗣先生をお招きしまして、小金牧で放牧されました野馬(のま)と牧(まき)を管理した、牧士(もくし)についてお話をいただくことになっております。金澤先生、どうぞよろしくお願いいたします。

 

結びにこの講演会の開催にあたり、ご協力いただきました白井市文化財審議会の皆様方に厚く御礼を申し上げますとともに、本日お集まりいただきました皆様の白井の文化財を守り伝えていこうと、こういうふるさと意識がより一層高まることを祈念いたしまして、簡単でございますけれども、挨拶とさせていただきます。 本日はどうぞよろしくお願いいたします。

協力者代表あいさつ

白井市文化財審議会 古里会長

白井市文化財審議会からご挨拶申し上げます。白井市文化財審議会の重要な仕事は、文化財を指定するということでございます。

国指定文化財、県指定文化財、市指定文化財という言葉をお聞きになった方も多いと思いますが、その市指定文化財に関して様々な調査やご意見を申し上げるという委員会です。

 

そして保護活用に関しまして、今回のような講演会にご協力させていただくことも重要な役割となっております。

 

白井市には国指定文化財1件、県指定文化財4件、市指定文化財43件ございます。

 

今回のテーマ「牧」に関わる文化財は県指定文化財2件、市指定文化財4件ございます。牧という文化財をご存知の方は多いと思いますが、かつて徳川幕府の小金牧であり「馬」を扱うことと、もう一つ大きな事業として幕府による「御鹿狩(おししがり)」がございました。

 

県指定文化財に関しましては「小金原の鹿狩り資料」がございます。御鹿狩と申しますのは、将軍が小金牧に出張してまいりまして、そこで害獣駆除ということで牧の隅々から動物たちを追立て現在の松戸市五香周辺に集め、武士たちが弓矢で仕留めるという催しで、江戸時代に4回開催されたようでございます。 猪や鹿、記録によれば狼も入っていたようですが、牧に生息する動物を追い立てる「勢子(せこ)」という人が追いかけ、一か所に集める役の頭(かしら)のような人が白井にもいらっしゃって、その方のお宅に残る様々な道具です。

 

もう一件は牧士(もくし)を務めたお宅に資料が残っております。

 

市指定文化財に関しましては4件ありますが、特徴的なのは野馬除土手でございます。非常に広い地域の牧でしたので、いわゆる今の牧場と違い、ほとんど野生に近い野馬が畑に出てきて荒らさないよう土手が巡らされておりまして、その一部が白井市に残っております。

 

白井市の歴史と文化に対して関係の深い「牧」に関して金澤先生から非常に興味深いお話が聞けることを楽しみにしております。

『小金牧の野馬と牧士』講演会

馬の博物館(外部リンク) 金澤 真嗣学芸員

公益財団法人馬事文化財団 学芸部学芸課 学芸員

金澤 真嗣 

 

要旨、総説や解説、書評など

江戸城御厩の繋養馬について-将軍はどのような馬に乗っていたのか-. 馬の博物館研究紀要. 2022. 23. 1-34
野に馳せる-小金牧牧士の調教・乗馬術-. 日本歴史. 2022. 895. 67-69
史料・文献紹介 菱田忠義・吉田ゆり子編『湊十分所史料集』. 歴史学研究. 2022. 1029. 73-73
大正・昭和戦前期における乗馬倶楽部と皇室. 鞍上にて駆ける近代 御料馬・主馬寮・天覧競馬. 2021. 103-107
佐倉牧における野馬の生産と生態. 馬の博物館研究紀要. 2020. 22. 31-76 等、多数。

 

講演・口頭発表等

馬の博物館所蔵「宗家旧蔵馬術関係資料」について-江戸のお殿様と馬術-
(第6回対州馬と対馬の歴史トークショー 2023)
乗馬倶楽部の「勃興」と皇室
(馬の博物館秋季特別展「鞍上にて駆ける近代 御料馬・主馬寮・天覧競馬」講演会 2021)
東葛地域の馬牧場『小金牧』
(鎌ケ谷市郷土資料館セミナー 2020)
下総牧の馬たち~野馬の生態と管理~
(船橋市郷土資料館・船橋市薬円台公民館 地域史講座「牧と開墾」 2019) 等、多数。

※国立研究開発法人科学技術振興機構一部抜粋

牧(まき)とは:牛馬の牧場のこと。でも現代の管理が行き届いた牧場とは異なる

→文献史学では牧の土地利用に関する研究が多く、どのような馬をどのように管理していたのか、実はよくわかっていない

→馬の生態を記録した古文書が少ないのが一因。日本はもちろん、世界各地の事例や動物学もふまえながら史料を読み込んでいく必要

 

房総の牧

①房総の牧とは…下総国の小金牧と佐倉牧、安房国の嶺岡牧の総称

→江戸幕府が設置し、武士の乗用馬の供給拠点として整備

→県内21市町に及ぶ。頭数ベースだと牧の規模は全国2位

②地形的な特徴…牧は一般に平地(島・河畔・台地)放牧と山地放牧に大別

→小金牧と佐倉牧は平地(台地)放牧

 ※耕作に適さない下総台地を活用。用水を得やすい谷津(やつ)は耕地に

→嶺岡牧は山地放牧

③自然地形の利用…谷や崖などをいかして、馬が逃げ出さないよう牧地を囲む

→棚で囲われた現代の牧場とは異なり、ヒトの生活空間との明確な境界線はない

→小金牧では野馬土手を張り巡らして馬の脱走を防ぐ

 ※白井市根にある八幡溜野馬除土手(白井市指定文化財)

④市域の牧…小金牧のうち印西牧(白井市・印西市)と中野牧(白井市・柏市・松戸市・鎌ケ谷市・船橋市)が所在

→1頭あたり数ヘクタールに及ぶ広大な草地が広がっていた

 

牧名

頭数(頭)牧名頭数(頭)

上野牧

150

高田台牧

300

中野牧300印西牧150
下野牧300合計1,200

※出典:清宮秀堅『下総国旧事考』

「印西牧場之真景図」

①「印西牧場之真景図」とは…神々廻・谷田・清戸・十余一から印西市にかけて広がっていた印西牧の野馬捕りを描いた屏風(白井市指定文化財)

②野馬捕りとは...馬を一か所に追い込んで捕獲し、選別する(間引く)行事。小金牧に限らず、日本・世界各地の再野生馬群で行われている

③小金牧の野馬捕り:毎年春に行われ、捕込(とっこめ)に追い込んで捕獲する

→雄馬は乗用馬・種雄馬・不要な雄馬(払い馬)に選別される

→大勢の人間が野馬を追い込む様子は壮観で、風物詩として画題になるほど人気を博した

 

※以上第22回白井市文化財講演会資料より一部抜粋


謝意:第22回白井市文化財講演会『小金牧の野馬と牧士』を取材しながらも、金澤学芸員の博識を楽しみ拝聴しました。記者だけかもしれませんが、博物館の展示物や掲示物には解説が掲載されていても、読んでいる途中で理解できず挫折することがあります。金澤学芸員は少しずつひも解きながら解説していて、頭に地図を描きながら少し理解できたように思えました。取材撮影させていただいた金澤 真嗣学芸員、白井市教育委員会、白井市文化財審議会の皆々様へお礼申し上げます。